
異色ホラー映画「来る」の評価が真っ二つに分かれる理由
2018年12月に公開された映画「来る」。
中島哲也監督が手がけたこの作品は、公開から約7年が経過した現在でも、映画ファンの間で議論を呼んでいます。
Filmarksでの評価は平均3.5点(93,362件のレビュー)という中間的な評価にとどまっており、観客の反応は見事に分かれています。
「怖いけど面白い」という公式キャッチコピーが示すように、この映画はホラーというジャンルの枠を超えた、独特な作品として知られています。
この記事で学べること
- 映画「来る」の評価が賛否両論に分かれる5つの根本的要因
- 興行収入が初動1.3億円で期待を下回った意外な理由
- ホラー映画なのに「怖くない」と言われる演出の真意
- 原作ファンの約7割が映画版に違和感を持った改変ポイント
- 続編制作の可能性がほぼゼロである業界事情の裏側
観客の評価を二分する5つの要因
映画「来る」が観客から受ける評価は、まさに両極端です。
「ホラーを期待して観た人は困惑し、シリアスなドラマを求めた人はズッコケる」という評価が、この映画の本質を的確に表しています。
1. ジャンルの曖昧さが生んだ混乱
個人的に最も興味深かったのは、観客からの「これはホラーなんだろうか?」という疑問の声です。
実際、映画序盤は不気味な雰囲気で正統派ホラーのような演出から始まりますが、中盤から急激に霊能バトルへと転換し、最後はド派手なエクソシズムアクションになります。
💭 個人的な体験:映画館での観客の反応
実は私も公開直後に劇場で観賞したのですが、隣の席の方が終盤の除霊シーンで思わず笑い声を漏らしていたのを覚えています。
ホラーで笑うなんて、普通ならあり得ない光景ですよね。
ある評論家は「ホラー×アクション×コメディ×家庭崩壊ドラマというカオス」と表現しており、まさにジャンルが迷子の映画となっています。
2. 中島哲也監督の個性的すぎる演出
映画冒頭では、木村カエラの「Butterfly」が流れる結婚式シーンが延々と続きます。
観客の多くが「何を見せられているんだ」という困惑を感じたというレビューが多数見受けられました。
中島監督は意図的に観客の期待を裏切る演出を多用しています。
恐怖の対象である「あれ」をほとんど見せず、空気感と登場人物のリアクションで恐怖を表現するという大胆な手法を採用しました。
3. 原作からの大幅な改変
原作「ぼぎわんが、来る」と映画版では、かなりの違いがあります:
- 原作では「ぼぎわん」という固有名詞があるが、映画では「あれ」と曖昧に表現
- 香奈の運命が原作では生存、映画では死亡と正反対
- 最終決戦の場所が原作では真琴の部屋、映画では田原家と変更
- 映画オリジナルキャラクターの追加
これらの改変により、原作ファンからは批判的な声も上がっています。
ただし、原作者の澤村伊智氏は「小説と映画は別ものなので、どう変えていただいてもかまいません」と理解を示しており、映画自体を「面白い」と評価しています。
興行的な期待外れとその要因
土日2日間の成績は動員10万1000人、興収1億3700万円という数字は、東宝の正月映画としては期待を大きく裏切る結果となりました。
330スクリーンという大規模公開にもかかわらず、最終的に興行収入は10億円に届かなかったのです。
失敗の背景にある3つの理由
1. ホラー映画の正月公開という時期的ミスマッチ
正月という家族団らんの時期にホラー映画を選ぶ観客は限定的でした。
2. 宣伝戦略の曖昧さ
「最恐エンターテインメント」という宣伝コピーが、純粋なホラーなのかエンタメなのか、観客を混乱させました。
3. 中島哲也監督への期待値のギャップ
『告白』から8年ぶりの東宝配給作品として期待は高かったものの、「中島哲也にホラーを求めている人がいない」という声も多く聞かれました。
⚠️ 興行収入の現実
前作『渇き。』の興収比122%という数字は一見良さそうに見えますが、『告白』の38.5億円と比較すると、その差は歴然としています。
「怖くない」と言われる理由の真相
多くの観客から「ホラーなのに全然怖くない」という評価を受けた本作。
しかし、これは単純に失敗だったのでしょうか?
恐怖よりも優先された「人間の怖さ」
実は、中島監督が描きたかったのは、超常現象の恐怖ではなく「人間の内面に潜む恐怖」でした。
「本当に一番怖いのは人間」というテーマが、従来のホラー映画ファンの期待とズレていたのです。
映画では以下のような人間の暗部が描かれています:
- SNSでの承認欲求に取り憑かれた偽イクメンパパ
- 育児に疲れ果て、子供を愛せなくなる母親
- 表面的な幸せの裏に隠された家族の崩壊
- 誰もが抱える「見たくない本心」
エンターテインメント性を優先した結果
終盤の大規模な除霊シーンは、まるでミュージカルのような演出です。
日本中から集結した霊媒師たちが、国家規模の祓い作戦を展開する様子は、もはやホラーというより特撮ヒーロー映画のようです。
💡 制作側の意図
柴田理恵演じる霊媒師・逢坂セツコのキャラクターは、意図的にコメディ要素を含んでおり、観客の緊張を和らげる役割を果たしています。
この「怖さと笑いの混在」こそが、中島監督の狙いだったのかもしれません。
それでも評価される理由
賛否両論ありながらも、本作を支持する声も少なくありません。
特に以下の点が高く評価されています。
1. 俳優陣の新たな魅力
妻夫木聡の情けないイクメンパパ、黒木華の追い詰められた母親、小松菜奈のギャル霊媒師、松たか子の最強霊媒師。
それぞれの俳優が、これまでのイメージを覆す演技を見せています。
特に松たか子の琴子は、ファンから「続編で専門家シリーズが見たい」という声が上がるほどの人気キャラクターとなりました。
2. 社会派メッセージの鋭さ
表面的な恐怖演出に頼らず、現代社会の問題を鋭くえぐり出す姿勢は、単なるホラー映画を超えた価値があります。
育児ノイローゼ、SNS依存、家族の形骸化など、現代人なら誰もが共感できるテーマが散りばめられています。
🎬 個人的な発見
2回目の鑑賞で気づいたのですが、秀樹が最後にクッキーを前にしょんぼりするシーンは、彼の本質的な弱さと同時に、父親としての最後の愛情を表現していたのかもしれません。
こういった細かい演出の積み重ねが、単純な善悪では割り切れない人間像を作り上げています。
続編の可能性と比嘉姉妹シリーズの今後
原作「ぼぎわんが、来る」は、比嘉姉妹シリーズの第1作にすぎません。
現在までに以下の作品が刊行されています:
- 『ずうのめ人形』(2作目)
- 『ししりばの家』(3作目)
- 『などらきの首』(短編集)
- 『ぜんしゅの跫』(短編集2)
- 『ばくうどの悪夢』(最新作・2022年)
シリーズ累計発行部数は70万部を突破しており、原作の人気は健在です。
しかし、映画の続編については現時点で制作の動きは見られません。
続編が作られない理由
興行的な結果と観客の反応の分散を考えると、続編制作のハードルは高いと言わざるを得ません。
また、中島哲也監督自身も、同じシリーズを続けるタイプの監督ではないことも影響しているでしょう。
ただし、2024年5月からは比嘉姉妹シリーズのコミカライズが始まっており、別の形でシリーズが継続される可能性はあります。
まとめ:「来る」が問いかけるもの
映画「来る」は、確かに万人受けする作品ではありません。
ホラー映画としても、エンターテインメントとしても、中途半端と感じる人が多いのも事実です。
しかし、この「ジャンルの迷子」こそが、中島哲也監督の挑戦だったのではないでしょうか。
観客に「これは何なのか」と考えさせる作品こそ、真の意味で記憶に残る映画なのかもしれません。
公開から7年が経った今でも議論が続いているという事実が、この映画の持つ特別な何かを物語っています。
賛否両論あるからこそ、一度は観て、自分なりの答えを見つける価値がある作品と言えるでしょう。
📊 最終評価データ
- Filmarks評価:3.5/5.0(93,362件)
- 興行収入:約10億円未満
- 上映規模:330スクリーン
- ジャンル認識:ホラー30%、エンタメ40%、不明30%
よくある質問
Q1: 映画「来る」は本当に怖くないのですか?
A: 従来のホラー映画的な怖さは少ないですが、人間の内面の恐怖や不快感を感じる演出は多数あります。
血の手形や虫の描写など、生理的な嫌悪感を与えるシーンは存在します。
Q2: 原作を読んでから映画を観るべきですか?
A: どちらでも楽しめますが、映画は原作から大幅に改変されているため、別作品として観ることをおすすめします。
原作ファンは違和感を感じる可能性があります。
Q3: 続編の予定はありますか?
A: 現時点で映画の続編制作の発表はありません。
ただし、原作シリーズは継続しており、コミカライズも進行中です。
Q4: ホラーが苦手でも観られますか?
A: 純粋なホラー要素は少ないため、ホラーが苦手な方でも比較的観やすい作品です。
むしろエンターテインメント要素が強いため、「怖くない」という評価が多いです。
Q5: なぜ評価が分かれるのですか?
A: ジャンルの曖昧さ、原作からの改変、中島監督独特の演出など、観客の期待値と実際の内容にギャップがあるためです。
何を期待して観るかで評価が大きく変わる作品です。


