はじめに
映画界の鬼才エドガー・ライト監督が、これまでにない新境地を見せた意欲作が『ラストナイト・イン・ソーホー』です。
1960年代のスウィンギング・ロンドンと現代を行き来する斬新な設定と、サスペンス要素とホラー要素を絶妙にミックスした展開で、世界中の観客を魅了しています。
本作は2021年9月、第78回ヴェネツィア国際映画祭でワールドプレミア上映され、大きな反響を呼びました。
物語の背景
舞台設定
物語の舞台となるのは、ロンドンの歓楽街として知られるソーホー地区です。
1960年代、この地区は音楽やファッション、アートなど、若者文化の中心地として最も輝いていた時代でした。
しかし、その華やかな表面の下には、暴力や搾取といった暗部も存在していました。
時代背景
1960年代のロンドンは、ビートルズを筆頭とする音楽シーンの爆発的な盛り上がりや、ミニスカートに代表されるファッション革命など、若者文化が花開いた時代でした。
本作は、その時代の光と影を丁寧に描き出しています。
現代のファッション専門学校を舞台にしつつ、60年代への郷愁を効果的に織り交ぜることで、二つの時代を対比させています。
ストーリー詳細
第一幕:夢の始まり
ファッションデザイナーを目指すエロイーズは、故郷の田舎町からロンドンへと上京します。
60年代の音楽とファッションを愛する彼女は、大きな期待を胸に専門学校へ入学します。
しかし、都会の生活や同級生たちとの関係に馴染めず、学生寮を出ることを決意します。
ソーホー地区の古い屋敷で一室を借り、新生活をスタートさせたエロイーズ。
その部屋で彼女は、不思議な夢を見始めます。
第二幕:もう一つの人生
夢の中でエロイーズは、1960年代のソーホーへとタイムスリップします。
そこで出会うのが、歌手を目指す美しい女性サンディです。
エロイーズは夢の中でサンディと一体化し、彼女の人生を追体験していきます。
華やかなナイトクラブでのショー、恋人ジャックとの出会い、夢への希望に満ちた日々。
サンディの体験は、エロイーズの現実の生活にも良い影響を与え始めます。
第三幕:暗部の露呈
しかし、サンディの人生は次第に暗転していきます。
恋人だったジャックの本性が明らかになり、サンディは望まない仕事を強要されていきます。
エロイーズは夢の中で、サンディの苦悩と絶望を目の当たりにします。
そしてついに、サンディが殺される衝撃的な場面を目撃してしまいます。
クライマックス
現実と夢の境界が曖昧になっていくエロイーズ。
彼女は60年代に起きた殺人事件の真相を追い始めます。
しかし、その探求は予想もしない真実へと彼女を導くことになります。
キャスト&キャラクター詳細
主要キャスト
- エロイーズ・ターナー(トーマシン・マッケンジー)
- ファッションデザイナーを目指す純真な少女
- 母親を自殺で失った過去を持つ
- 60年代の音楽とファッションを愛する
- 特殊な第六感を持っている
- サンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)
- 1960年代に歌手を目指した魅惑的な女性
- 本名はアレクサンドラ
- 夢と希望に満ちた若者として登場するが、次第に暗い運命をたどる
- ジャック(マット・スミス)
- サンディの恋人として登場
- ナイトクラブのマネージャーを務める
- 表面的な魅力の裏に、暗い本性を隠している
脇を固める実力派
- ミス・コリンズ(ダイアナ・リグ)
- エロイーズの下宿先のオーナー
- 本作が遺作となった名女優による演技
- 銀髪の男(テレンス・スタンプ)
- エロイーズの前に度々現れる謎の人物
- 物語の重要な鍵を握る存在
作品の見どころ
視覚的演出
エドガー・ライト監督の真骨頂である斬新な映像表現が随所に見られます。
60年代と現代を行き来する場面では、鏡やガラスの反射を効果的に使用し、幻想的な雰囲気を作り出しています。
ネオンに彩られたソーホーの街並みは、美しくも不気味な雰囲気を醸し出しています。
音楽演出
60年代の名曲の数々が、物語を効果的に彩ります。
使用される楽曲は全て、その場面の感情や雰囲気を完璧に表現しています。
特にダスティ・スプリングフィールドやピーター&ゴードンの楽曲は、時代の空気感を見事に表現しています。
テーマ性
本作は単なるホラー映画を超えた、深いテーマ性を持っています。
若い女性たちの夢と現実、都会の光と影、過去と現在の対比など、様々な要素が織り込まれています。
特に#MeToo時代における女性の立場や権利について、重要なメッセージを投げかけています。
作品評価
批評家の評価
- Rotten Tomatoesでの評価は76%の高評価
- Metacriticでは65点を獲得
- 映像美と演出の斬新さを高く評価
- 二人の主演女優の演技力に絶賛の声
- 後半の展開については賛否両論
観客の反応
- 60年代の雰囲気の再現度に高い評価
- ホラー要素とサスペンス要素のバランスの良さを指摘
- 予想を裏切る展開に驚きの声
- 音楽の使用方法を絶賛
- 視覚的な美しさに感動の声
鑑賞のポイント
準備として
- R15+指定作品なので、年齢制限に注意
- 可能な限り事前情報なしでの鑑賞を推奨
- 60年代の音楽やファッションについて、軽く予習しておくと楽しみが増す
- ホラー要素があることを念頭に置く
注目ポイント
- 二つの時代を行き来する演出方法
- 主演二人の演技の違いと変化
- 音楽の使用方法と場面との関連性
- 視覚的な仕掛けとその意味
- 物語に散りばめられた伏線
まとめ
『ラストナイト・イン・ソーホー』は、エドガー・ライト監督の新たな挑戦として高く評価できる作品です。
タイムリープファンタジーとサイコホラーの要素を巧みに組み合わせた独特の世界観は、観る者を魅了してやみません。
トーマシン・マッケンジーとアニャ・テイラー=ジョイという二人の実力派女優の競演も、作品の価値を大きく高めています。
60年代ロンドンの再現や音楽の使用など、細部へのこだわりも見事です。
単なるホラー映画の枠を超えた深いテーマ性を持つ本作は、幅広い観客層に強くおすすめできる意欲作といえるでしょう。